
自身の直感と意思を信じ、異業界からバリスタの世界へと飛び込んだ元貴さん。建築業界で培ったビジネス視点を武器に、現在はケータリングやコンサルティング、さらには「街づくり」や「地球環境の循環」まで視野に入れた独自の活動を展開しています。
なぜ元貴さんは他人の意見に振り回されず、自分の人生を切り拓いてこられたのでしょうか。元貴さんの言葉から、人生を自分らしく生きるためのヒントを探ります。
「自分の人生のハンドル」は自分で握る

元貴さんはこれまで、周囲から反対されるような大きな選択を幾度も重ねてきたんですね。
そうですね。何か新しいことに挑戦しようとするとき、周囲から「そんなの無理だ」「大丈夫なのか」と止められることは何度もありました。
幼少期にやっていた水泳を辞めようと相談した時も、サッカー部に入るときも、大学から建築会社に就職するときもです。
でも、特に社会に出るタイミングで自分の中に強い思いが芽生えました。「自分の人生なのに、なぜ他人に決められなきゃいけないんだろう」って。もちろん心配してくれている気持ちはありがたいですが、自分以外の人間という意味では結局「他人」じゃないですか。
周囲の意見に流されず、自分の意思を貫こうと思えたのはなぜですか?
「自分の意思を持って、自分が心から挑戦したいことに飛び込むべきだ」と強く思ったからです。安定した道や勧められた道を選ぶのではなく、自分がワクワクする方に進みたかった。
自分の人生の主導権を他人に渡すのをやめて、自分の決断で前に進むと決めた。それが僕の原点ですね。
「カフェ店員」ではなく「スペシャリスト」を見据えていた

その後、3年間勤めた建築業界を辞めてバリスタへと転身されたわけですが、そのときも大きな反対がありましたか?
一番反対されました(笑)。建築の仕事は過酷でしたが、それなりの収入もありましたから。「今さら未経験で飲食業界に行ってどうするんだ」と言われました。
ただ、僕と周りとでは「見ている景色の広さ」が全く違っていたんです。
周りが想像していたのは、「バリスタ=カフェのカウンターに立って注文を受ける店員」の姿でした。でも、僕が頭の中で描いていたビジョンはもっと広かったんです。
- バリスタ専門学校の講師として技術を教える
- カフェを開業したい人へのコンサルティング
- オフィスやイベントへ出向くケータリング
- 自家焙煎とおろし売り
コーヒーって、レストランやホテル、ラウンジなど世の中のあらゆる場所にあるじゃないですか。だからこそ、この業界で誰も真似できない「スペシャリスト」になれば、サラリーマン時代の収入なんて超えられるし、ビジネスチャンスはいくらでもある。
自分がそこへたどり着くための準備と計算を徹底的にしていたからこそ、周りの否定的な意見は全く気になりませんでした。
挫折と徹底的な「自己分析」から見つけた原点

そもそも、なぜ建築から「バリスタ」だったのでしょうか?
原点は高校時代にあります。当時、部活でインターハイに行ったんですが、自分が成果を出したこと以上に、周りの人たちが感動して泣いたり喜んだりしてくれた光景が忘れられなかったんです。
「自分が一生懸命頑張ることで、人に感動や喜びを与え続けられる人生にしたい」
そう思って社会に出たんですが、建築の現場はスケールが大きすぎて、現場に携わっていたとき「自分は誰のために、何のためにこれをやっているんだろう」と手応えを見失ってしまいました。
目の前の人に届いている実感が湧きにくかったんですね。
そうですね。だから会社を辞めた後、2週間ガッツリ集中して自己分析をやりました。自分はどういうことに喜びを感じるのか、世の中にはどんな仕事があるのかを調べ、人に会い、現場を足で見て回った。
そこでたどり着いたのが「バリスタ」でした。
水泳を22年間続けてきた自分には、器用に何でもこなすゼネラリストよりも、一つの物事を突き詰める「スペシャリスト」の生き方が向いている。目の前のお客さんに最高の一杯を提供して、笑顔になってもらう。これなら自分の根底にある軸を実現できると、確信を持てたんです。
「想定外のリーダーシップ」と新しいリーダー像の発見

バリスタの専門学校に通い始めてからの学びはいかがでしたか?
実は最初、「自分はコーヒーの技術だけを学びに来たんだから、友達なんていらない」とすら思っていたんです(笑)。でも、結果として2年間で一番学べたのは「人との関係づくり」と自分も気づいていなかった「得意分野の発見」でした。
具体的にどんな出来事があったのでしょうか?
学校の授業で、生徒たちで実際に店舗を借りて10回以上リアル営業をする実践授業があったんです。18歳から40代まで年齢も経歴もバラバラのクラスで、役割決めをするときに、多数決で僕が「店長」に選ばれてしまって。
僕はもともとプレイヤーとしてコーヒーを淹れたかったし、前に出て引っ張るリーダータイプではないと思っていたので、「仕方ない、できなくても知らないぞ」くらいの気持ちで引き受けたんです。
実際にやってみてどうでしたか?
それが、やってみたら思っていた以上にうまくいって(笑)。コンセプト決めから全体調整まで手がけたら、歴代でもトップクラスの売上を出して、クラス全員が満足できるお店を作れたんです。
結局、その後の営業でも卒業制作でも、ずっと周囲から頼まれて店長やディレクターを務めることになりました。
自分の「得意」は、周りから引き出されることもあるのですね。
ほんとにそうです。最初は自分の意思でやり始めたわけではないけれど、やっていくうちに全員と1対1でじっくり向き合うようになって。クラス全員から人生相談や人間関係の悩みを受けるくらい信頼関係ができたんです。
それまでの僕にとって、リーダーと言えば「俺についてこい!」と強引に引っ張るオラオラ系や憧れのカリスマ像でした。でも、「周りに寄り添い、個々の強みを引き出す」というリーダー像があってもいいんだと気づけた。
2年目には、自信のなさそうなクラスメイトに「サポートするからリーダーやってみなよ」と役割を振り、その経験をきっかけに彼らが自信をつけて店長になっていく姿も見られました。自分がやりたいことと、客観的な自分の強みは違うかもしれない。周りの声に耳を傾ける重要さを知った大きな経験でしたね。
自信は「小さな達成」と「修羅場」の積み重ね
先ほどの学校での経験も含め、元貴さんのお話を聞いていると非常に強い「自信」を感じます。その自信はどうやって培われたのですか?
自信って、急に身につくものじゃないんですよね。僕の場合は、「小さな目標を達成し続けた実績」と、「過酷な修羅場を乗り越えた記憶」の積み重ねです。
水泳は結局22年間続けたんですが、最初は公式大会にすら出られないほど結果が出なくて、コーチからも「才能がないから辞めてほしい」とずっと言われ続けていました。練習に行っても怒られてばかりで帰されるような状態だったんです。でも、そこから諦めずにやり続けて、最終的には全国大会に出場できるまで這い上がることができた。
落ちこぼれと言われた状態から、全国大会まで!
「ダメだ」と言われ続けたところから結果を出せたこの経験は、間違いなく今の僕の大きな自信の土台になっています。
その後の建築時代も、営業と現場管理を同時に6〜10か所抱えて朝から晩まで働いていましたが、「あの水泳の悔しさや建築での地獄のような環境を生き抜いたんだから、どこへ行っても大丈夫だろう」という強烈な開き直りが生まれたんです。
試練や挫折を逃げずに学びへ変えた経験が、そのまま自信になったんですね。
はい。最近は「苦労は避けるべき」「好きなことだけやればいい」という考え方も多いですが、苦手なことや過酷な壁から逃げずに乗り越えた瞬間にこそ、人は本物の自信を手に入れられると思っています。
もちろん、精神的に病んでしまうような環境からは逃げるべきです。でも、理由を曖昧にしたまま投げてしまうのはもったいない。「なぜ今こうなっているのか」と一歩引いて俯瞰して考える姿勢を持つことで、どんな苦労も自分の「学びの踏み台」に変えることができると思います。
誰も気づかない細部にこだわる

バリスタとしての現在のこだわりについても教えてください。
実は、本来のバリスタは「コーヒーを抽出する職人」で、豆を炒る「焙煎士」とは役割が分かれています。でも僕は、自分だけの味をゼロから表現したかったので、未経験から独学で焙煎も学びました。最初の20キロ以上の豆を無駄にしながら研究を重ねたんです。
豆の硬さや精製方法を見極め、香りの立ち上がりを秒単位でコントロールする。さらに現場では、目の前のお客さんによって抽出し方を変えています。
- 酸味が苦手な日本のサラリーマンには、酸味を抑えた抽出をする
- 浅煎りを好む海外のゲストには、フルーティな香りを際立たせる
- 忙しそうな人にはスピーディに提供し、寛ぎたい人には空間づくりの会話を添える
すごい!そこまで細かく見極めて変えているんですね!
お客さんからは見えない、言葉にも出さない微小なこだわりです。でも、その人の好みや場の空気感を察してさりげなく対応を変化させることこそが、マニュアルに縛られない個人のバリスタとしての「真のホスピタリティ」だと思っています。
建築時代に飛び込み営業や職人さんとの交渉で培ったコミュニケーション力や空間づくりの意識も、すべてここに生きていますね。
一杯のコーヒーから「地球の未来」をつくる
これからの未来、元貴さんはどんな挑戦を見据えていますか?
今はバリスタとしての「第二フェーズ」に入っています。これまではスペシャリストとしての技術を磨く段階でしたが、これからはコーヒーを使って「街づくり」や「地球環境の改善」に貢献したいと考えています。
コーヒー業界には「Seed to Cup(種からカップまで)」という言葉があるのですが、僕はそれを一歩進めて「Seed to Earth(種から地球まで)」というコンセプトを掲げています。
Seed to Earth……非常に興味深いコンセプトです。
環境保全や教育支援に力を入れている農園から適正な価格で豆を買い、美味しく飲んでもらう。そして抽出後の「コーヒーかす」を廃棄せず、土壌を改善する高品質な肥料として再利用するんです。
その豊かな土壌で美味しい作物を育て、地域循環型のコミュニティを作っていく。ただの「美味しい飲み物」で終わらせず、一杯のコーヒーに関わることで地球や世の中が巡り巡って豊かになっていく仕組みを作りたい。
専門学校時代に見つけた「プロデューサー的な視点」を生かし、「バリスタは店舗のカウンターに立つ仕事」という固定概念を壊して、もっと広い視点で社会に介入していきたいですね。
自分の「100年」を、後悔なく生ききる

最後に、元貴さんが人生で大切にしている価値観を教えてください。
「後世に名前を残したいか?」と聞かれたら、僕の答えはノーです。自分が死んだあと、名前や作った仕組みが残らなくても一向にかまわない。時代が変われば人の価値観も文化も移り変わるのが自然ですから。
大切なのは、「自分が生きるこの100年という時間を、後悔なく体験しきること」です。
かつてプライドに縛られ「完璧な自分」でいようとしていた頃よりも、泥臭く挑戦を重ね、周囲の声を拾いながら自分の領域を広げている今の方が圧倒的に面白い。過去に戻りたいと思ったことは一度もありません。「今」がいつだって一番充実しています。
もし何かに挑戦するのが怖くなったときは、10年後の自分から今の自分を俯瞰してみてほしい。「あの時の失敗も、どうせ将来の笑い話になっているだろう」って。自分の人生の舵は、自分で握って進んでいけばいいんです。
最後に
インタビューを通じて印象的だったのは、元貴さんの驚くほどの客観性と柔軟さです。自分の軸を強く持ちながらも、他人の声に耳を傾け、置かれた環境を貪欲に自らの糧へと変えていく。
苦労や挫折すらも「自分を知る良い機会」として捉え直すしなやかさとポジティブさが、元貴さんのブレない自信の源なのだと感じました。
過去の経験すべてを未来への武器へと変えていく元貴さんの挑戦に、これからも目が離せません。
<元貴さんの活動はこちら>
・MAISON BARISTA
MAISON BARISTAコーヒーを軸に、ファッション、アート、音楽など様々なカルチャーを提供します。maison-barista.com
・CATERING COFFEE ROASTERS
